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背景と課題
有料駐車場は大きな可能性を持つ分野ですが、ユーザー体験という観点ではまだ改善の余地があると感じています。人力やゲート機による従来の精算方法も一定の効果はありますが、デジタル技術を活用することで、より優れた体験が提供できるのではないかと考え、この領域に関心を持ちました。
現在、世界中の多くの駐車場運営会社がモバイルアプリを活用し、UX向上を目指しています。特にアプリを使った精算システムは、その代表的な例です。
しかし、この方式にはいくつかの構造的な課題があります。多くのユーザーは一時的な利用に過ぎないにも関わらず、アプリ(数百MBのこともある)をインストールし、会員登録と決済手段の登録を求められます。これは明らかに高すぎる利用のハードルであり、ユーザーにとっては負担となります。
企業側はクーポンやポイント制度などで使用を促そうとしますが、それらはあくまで「不便さの補填」にすぎず、本質的な問題の解決には至りません。
この問題に対する一つの代替案として、アプリとウェブの両方を提供する方式があります。しかし、Webではプッシュ通知や位置情報の活用に制限があり、運用面でも2つのプラットフォームを管理する負担が大きくなります。
では、もっと良い方法はないのでしょうか?
App Clipという選択肢
私はこの問題に対する現実的な解決策として、iOSの App Clip 機能に注目しました。
App Clipは、App Storeの本体アプリに連携しつつも、インストール不要で即時に起動可能なミニアプリです。NFCタグやQRコードをスキャンするだけで、すぐに利用を開始できます。
特に重要なのは、アプリがインストールされていなくても位置情報サービス、通知、Apple Payによる決済などが制限付きで利用可能な点です。
つまり、一度の利用でも十分な機能を提供し、満足度の高い体験を提供できるということです。
その結果、ユーザーにとっての心理的ハードルを下げつつ、企業にとっては自然なアプリインストールへの導線としても活用できます。さらに、App Clipは30日間使用されなかった場合、自動的にデバイスから削除されるため、ユーザーにとっては「不要なアプリを整理する手間」もかかりません。
サンプルアプリの紹介
この動画で紹介しているApp Clipは、上述の課題やUXへの問題意識をもとに、私自身が試作したものです。
多くの駐車場ではセンサーやカメラで駐車状態を検知しています。利用者が車から降りてQRコードをスキャンすると、App Clipが即時起動し、現在の駐車状況を確認し、Apple Payで支払うことができます。
インストールやログインなしに、料金確認、支払い、クーポン適用までを簡単に完了でき、スムーズな体験を提供します。もしサービスに満足すれば、正式アプリへの移行も自然に行われます。
今後の課題
このサンプルの最大の課題は、iOS専用であることです。Androidユーザーやスマートフォンに不慣れな方は、利用対象から除外されてしまいます。
調査したところ、Androidには「Instant App」というApp Clipに近い機能がありますが、実装のしやすさやUXの滑らかさがiOSに匹敵するかどうかは、さらに検証が必要です。
また、現在はApple Payのみ対応しており、より多くのユーザーに対応するためには、決済手段の多様化も今後の課題といえます。
最後に
実は私自身も、アプリのインストールに疲れを感じていたユーザーの一人です。駐車アプリを使いながら「もっと良い方法はないのか?」と考えるようになり、今回App Clipを活用したサンプルを制作しました。
この仕組みが完璧な解決策だとは思っていませんが、少しでもユーザー体験を前進させる試みになれば、それだけでも意味があると信じています。
もしこんなサービスが実際にあれば、私もぜひ使ってみたいです。